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INTERVIEW

Anycaのエンジニアが語る、多機能アプリに必要な
「情報整理」と「柔軟な設計」

渡邊 直樹/大石 優介 渡邊 直樹/大石 優介

DeNAオートモーティブが提供するカーシェアサービス「Anyca(エニカ)」。シェアリングと組み合わせることで、購入費0円でマイカーを持てる「0円マイカー」の仕組みを新たに構築するなど、バージョンアップが進んでいます。

そんなAnycaのアプリを構築するエンジニアが、DeNAオートモーティブ事業本部カーシェアリンググループの渡邊直樹(わたなべ・なおき)さんと大石優介(おおいし・ゆうすけ)さん。大切な車のシェアだからこそ、アプリに盛り込むべき情報は多岐にわたるようで、「これほど機能の多いアプリは初めて」と2人は口を揃えます。その中でどのような工夫を凝らし、UXを高めているのか。開発の裏側を聞きました。

渡邊 直樹/大石 優介

オートモーティブ
事業本部
カーシェアリング
グループ

渡邊 直樹
Naoki Watana

オートモーティブ
事業本部
カーシェアリング
グループ

大石 優介
Yusuke Oishi

揃っていた点を線で結ぶ。アプリの情報を整理する作業とは

ーーお二人はAnycaのアプリエンジニアということですが、どんな役割なんでしょうか。

渡邊:僕はAnycaのアプリがどう動くべきか、その振る舞いを考えたり、みんなの意見を集約して、全体の構造や開発の方向性を立てたりしています。主にiOSを担当しています。

大石:そうやって考えられた振る舞いや構造について、実現させるためのシステムをサーバー開発者と相談しながら、具体的な仕様書に落とし込む作業が私の役割です。私はAndroid の担当で、渡邊が考えたアプリの振る舞いについて、バックの設計図を書いて実現させる形ですね。

とはいえ、Anycaはオートモーティブの中でも珍しいほどのスモールチームで、1人1人がやる領域はかなり広いですね。エンジニアサイドといっても、言われたものを開発するのではなく、分析から提案、開発まで、ほぼすべてのプロセスで自分の意見や考えを言えるんです。

渡邊:なので、いい意味で好き勝手にできる面はありますよね。

ーーその中で、Anycaにおけるこだわりはどんなところでしょうか。

渡邊:僕が思うAnycaの最大の特徴は、機能や項目、情報の多さです。所有者にとって思い入れが強く、高額な持ち物である車をシェアするので、さまざまなシーンでの情報が必要。クルマの受渡時や返却時に車のキズを確認する機能や、事故時のヘルプ情報、さらに時間の延長や早めの返却など、いろんなケースに対応した情報や画面が必要になります。

大石:確かに、こんなに機能や要素の多いアプリはないと思います。私は前職で動画配信系のAndroidアプリを、渡邊はIT企業でiOSアプリを開発していましたが、これだけ機能の多いアプリはお互い初めてで(笑)。安心・安全なカーシェア体験のためには、こんなにやることが必要なんだと。

渡邊:なので、僕がここに来てからは、アプリ内の情報の引き算というか、整理を徹底的にしました。必要な情報はすでにきちんと出揃っていたのですが、それぞれの点が線で結ばれていないケースがあって。そこを整理してユーザーに良い体験をしてもらうことが僕の役割かなと思いました。

たとえばトップページなら、新しい人が来た時にまず何をしたら良いかわかりやすくする。そのためにあえて情報を減らすとか。ユーザーごとの場面によって必要な情報も変わるので、適材適所で表示される設計にしようとか。

先ほどのキズを確認する機能なら、受渡と返却のタイミングで目につくところに置く。そのほか、クーポン機能では、ユーザーの検索場所に沿った情報を提示する。そうやって、どんどん整理していきました。

ーーとはいえ、個人間のカーシェアアプリは類似サービスがないので、ベンチマークや基準も存在しないですよね。その点での作りにくさはありませんでしたか。

渡邊:それはあまりないですね。必要なのは、自分がお客さまの立場になってアプリを使ったとき、本当にこの情報が適切か、この情報が必要かを純粋に追求することなので。

あとは、僕以外のメンバーも会議やスラックでどんどん案を出してきますから、むしろまとめるのが大変なくらいです(笑)。

大石:それは私も驚いたところで、こんなにいろんな人から案が出てくるのかと(笑)。お互いITの若い企業から移ってきたので、そういう文化を経験しているつもりでしたが、それでも印象的でした。DeNAの社風なのだと思います。

渡邊 直樹/大石 優介

新たな文化であり、成長フェーズのアプリに求めた「柔軟な設計」

ーーそういったアイデアを実装していく大石さんにとって、アプリ開発でこだわった点はありますか。

大石:アプリの機能やフォーマットを柔軟に変化できるようにした点です。お客さまに伝える項目が多岐にわたる中で、たとえばある機能の通知タイミングを少し早くしたい場合、アプリを更新せずにサーバー上で変えられたり。誤操作の多い項目についても、表示する時間帯を変えることで改善できるケースがあるのですが、それらもなるべくサーバー上で手軽に行える設計にするなど。

当初、これだけ柔軟に対応できる設計にしてほしいとリクエストされて、正直そこまでやる必要があるのか疑問だったんですね。でも、実際はかなり役に立っていて、間違っていなかったと感じています。

ーーそれはどんな意味でしょうか。

大石:個人間カーシェアは、今までになかった文化です。なので、お客さまによって認識や理解の深さがさまざまなんですよね。しかも今は、サービスが普及してお客さまが絶えず増え続けている段階。すると、お客さまの理解度に対し、アプリとしてどこに合わせるか、最適化のポイントが細かく変わっていくわけです。このとき、柔軟に変化できる設計にしたことは、すごく意義があったと思います。頑張ってよかったと(笑)。

ーーちなみに、サービスに加わった「0円マイカー」なども変化のひとつだと思います。それがアプリ開発に与える影響はありますか。

渡邊:0円マイカーは、Anycaでカーシェアをすることや、駐車場を提供頂くことなどを前提に、お客様にクルマを貸与する仕組みです。
これにより、購入費0円でマイカーを持っているような体験をお客様に提供することができます。もしこれが浸透すれば、車の価値観も大きく変わるでしょう。そのとき、Anycaのサービスが素晴らしくても、アプリの使い勝手が追いつかなければ台無しになります。そこは力の入れどころですね。

一方で変えたくないものもあって、Anycaはあくまで個人間、CtoCのカーシェアが出発点です。ただ、0円マイカーの登場により、BtoCの要素も入ってくる。僕らとしては個人間という立脚点をあくまで大切にしながら、バランスをとったUXを作っていきたいです。

大石:私は特に変わらず、リクエストされたシステムを丁寧につくるだけです。新しいビジネスを実現する上で、必要な技術力を提供するのが役目ですから。そこを堅実に続けていきたいなと思います。

渡邊:職人ですね(笑)

渡邊 直樹/大石 優介

分析から開発まで行える環境は、エンジニアとして貴重

ーー先ほど前職の話が出ましたが、2人とも車とは関連のない業界からの転職でしたよね。

渡邊:そうですね。僕はiOSアプリの開発をしていましたが、ちょうど転職を考えていた時期でした。カーシェア自体はプライベートで使っていて、Anycaも興味があったんです。それと、いろいろなことをやりたいタイプなので、多事業展開しているDeNAはいいなと。

大石:私は動画配信のアプリを作っていましたが、キャリアとして違う領域に挑戦したいと考えていました。もともと車が好きで、というのも、電車やバスは移動に制限がありますが、車は自由ですから。移動手段として魅力的で。そういう考えも背景にあり、このタイミングで車のサービスに携わろうと思いました。

ーー実際DeNAに来て、先ほどは「意見がどんどん挙がる社風に驚いた」と話していましたが、他にAnycaの開発で独特な点はありますか。

渡邊:エンジニアとしてここまでサービスに関われるのは貴重だと感じます。僕らの裁量もかなり大きくて、自分でUI/UXを決められます。サービスにコミットしたいエンジニアには恵まれた環境ではないでしょうか。

大石:私自身も、今まで分析からアプリの開発まですべてに携わることはなかったので、それは本当に特殊ですね。

ーーアプリ開発では、かなりの部分を任されているということですか。

渡邊:はい。もちろんAnycaとして守るべき部分があるので、そういったところは上長に確認しますが、基本的には僕らがつくろうと思えばつくれる環境。「いいサービスを作るために一人一人が動いている」と信頼してもらえているのかなと思います。

大石:加えて、DeNAは全社横断での品質管理部門(QCチーム)があり、各サービスに担当者が割り当てられています。彼らがアウトプットのクオリティを審査してくれるので、安心して新規機能の開発や既存機能の改善に注力できます。

もうひとつAnycaの特殊性でいうと、お客さまとの意見交換が活発なことですね。実際に、お客さまの意見をすぐアプリに反映したケースは多数あり、対応すべきものは即座に反映する体制になっています。

渡邊:オンライン上のレビューはもちろん、カーオーナーへの説明会は毎月、懇親会なども数ヶ月に一回やっていて、その場でヒントもいただいています。IT系の企業では、お客さまの前に立つこと自体あまりないと思うので。魅力的に感じる人には良いかもしれません。

大石:といっても、お客さまの前に立つことは強制ではないですから。対面でなくても、オンラインのレビューからサービス改善につなげてもいいですし。いずれにせよ、そういったお客さまの生の声を吸い上げて、自分たちで分析から開発まで行えるのは貴重だと思います

渡邊:Anycaはお客さまの熱が高くて、参考になる意見もたくさんあります。それも特徴ではないかと。

大石:車はただのモノにとどまらず、愛着を持って接している方が多いので、その分、関連サービスにも愛着を持っていただいている気がします。だからこそ、今後はサービスを汎用的に広げつつ、そういったコアなお客さまの熱意も大切にしたいですね。

ーーそのようなところが、Anycaを開発するチームの目指すところですね。

渡邊:そうですね。一般の方が広く使えるものに最適化しながら、熱意にもきちんと応える。そんな感覚を大切にして、これからも開発していきたいと思います。サービスも大きくしていきたいので、同じような感覚を持つ人と一緒に力を合わせていきたいですね。

ーーちなみに、Anycaに携わる上で自動車分野での経験や専門知識は必要だと思いますか。

大石:そこはあまり関係ないと思います。世の中には、公共交通機関では行けない、車でしか行けないところが山ほどあります。もし車を持っていない人がカーシェアでそこに行けるようになれば、新しい体験が生まれます。私たちはその手段を提供する存在。なので、新しい体験をサポートしたい人であれば、きっといいサービスを作れるのではないでしょうか。

渡邊 直樹/大石 優介

取材日: 2019年3月22日