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INTERVIEW

AIとIoTを活用して交通事故が減るように。
プロジェクトリーダーが語る、DRIVE CHARTができるまで(前編)

川上 裕幸 川上 裕幸
INTERVIEW

オートモーティブ事業本部
スマートドライビング部
部長

川上 裕幸
Hiroyuki Kawakami

DeNAオートモーティブでは、6月4日、交通事故削減に向けた新サービスをローンチしました。それが「DRIVE CHART」です。このサービスは、車に設置したカメラの映像やセンサーをもとに、AIを用いてドライバーの運転を分析。タクシーやバス、商用車などのドライバーの危険な運転を可視化し、安全運転指導に生かします。

このプロジェクトのリーダーを務めているのが、DeNAオートモーティブ事業本部 スマートドライビング部 部長の川上裕幸さん。DRIVE CHARTはどのような背景から生まれたのか。前後編に分けて、彼のキャリアを振り返るとともに、その成り立ちを追っていきます。

川上 裕幸

AIによる画像認識の技術で、危険な運転シーンを自動で切り出す

ーーDRIVE CHARTとは、どんなサービスなのでしょうか。

ドライバーの運転の特徴を映像やデータから分析して、より安全な運転を実現するための指導や管理に生かすサービスです。まずはタクシーやバス、商用車を使う企業など、法人向けに提供しますが、いずれは個人向けのサービスにすることも視野に入れています。

ーーどのようにしてドライバーの運転を分析するのでしょうか。

ひとつは、AIの画像認識技術を活用します。あらかじめ、車両に外向きのカメラと、運転者を映す内向きのカメラをつけた車載器を設置し、カメラの映像をAIがリアルタイムで分析します。さらに、車載器に搭載されたGPSと加速度センサーのデータと地図情報なども組み合わせることで、習慣となっているドライバーの危険運転や潜在的なリスクを検知します。たとえば一時停止ができているか、車間距離はとれているか、また、ドライバーの脇見や居眠り(今後追加予定)、急加速や急ブレーキなどを検知し、危険シーンとして検出しています。

ーー危険な運転やリスクをどう伝えるのでしょうか。

DRIVE CHARTの特徴は、危険な運転として検出されたシーンについて、自動で動画が切り出されるので、その部分だけの振り返りが可能な点です。タクシーやバス、商用車に乗るドライバーは、1日に何時間も運転している方が多く、たとえ映像を撮っていても、それを毎日すべて見るのは難しいですよね。

このサービスでは、危険運転と考えられるシーンの動画をピンポイントで見ることができます。ドライバー自身が短時間で振り返れるだけでなく、管理者もその動画を確認可能。また、各ドライバーの“運転スコア”を算出し、レポートを作成。これらをもとに、具体的な安全指導や環境改善ができます。

従来、このようなサービスは、ドライブレコーダー内のSDカードなどに動画を記録し、運転後にカードを抜いて、パソコンに移して分析するケースが多かったと思います。DRIVE CHARTは、動画やデータをすべてクラウド上に記録し、ウェブでレポートや危険シーンの動画を確認できるので、手間もかからず日常的に行えるのではないでしょうか。

AIを活用した自己削減システム 川上 裕幸

年間47万件の交通事故を、AIの力で削減できないか

ーーなぜ、DRIVE CHARTを作ろうと考えたのでしょうか。川上さんのキャリアと合わせて聞ければと思います。

私がDeNAに入社したのは2011年です。それまでは、携帯電話の半導体をつくる企業でソフトウェア開発を行ったり、その後、スマホが世の中に出始めた頃からは、アンドロイドの開発に携わりました。

半導体の開発から製品開発に移り、「次は何をしたいんだろう」と考える中で、サービス開発に興味が湧きました。それがDeNAに入った理由です。ただ、オートモーティブ事業部に行くのは、それから6年ほど後です。

ーーオートモーティブに移る前は、DeNAでどんなことをやられたのでしょうか。

モバゲーの部署に入り、プラットフォームの責任者を務めました。グローバルで展開するプラットフォームの基盤開発などを手がけたんです。その後、エンタメ系のサービス立ち上げも担当。オートモーティブ事業本部にジョインしたのはその後、2017年頃です。

ーーなぜオートモーティブに移ったのですか。

モバゲーの部署にいる頃から、オートモーティブのあるプロジェクトで技術的な相談を受けていました。その現場に行ったり、あるいは交通に関する世間の注目度が上がる中で、私も興味を持つようになったんです。

サービス開発に携わりたいとDeNAに入り、エンタメ系で一定の経験を積むことができました。自分として次のステップを考える中で、サービスの中でも「交通」という生活に密着したものをやりたいなと。自分の気持ちもそちらに向いていましたし、これまでに培ったスキルも活かせると思い、異動することに決めました。

DRIVE CHARTにつながるプロジェクトに関わったのは、それから間もなくのことです。

ーー詳しく教えてください。

オートモーティブ事業では、すべてのベースに「安全」「快適」の実現があります。日本の交通事故件数を見ると、年間47万件以上発生しており、死亡事故も3000を超えています。徐々に減少傾向にあるとはいえ、膨大な数であることに変わりはありません。

加えて、最近は高齢者の交通事故なども頻繁に起きています。今後、高齢化が進む中で、大きな社会課題と言えるでしょう。もちろん、交通事故は悲劇を生むだけでなく、経済的な損失にもつながります。

DeNAは、AIとインターネットの力で事業を展開している企業です。その中で、交通事故という社会課題を、AIによって改善できないかというテーマを事業部で掲げました。私は異動して間もなく、そのプロジェクトリーダーになったのです。

川上 裕幸

「教習所で言われたこと」を誰もが守れるように

ーー具体的に、どのようなことからプロジェクトを始めたのでしょうか。

なぜ交通事故が起きるのか、その根本的な問いからスタートしました。減少しているとはいえ、年間50万近い交通事故が起きています。事故は誰も起こしたくないし、被害を受けたくないのに、なぜここまで発生するのかを考えました。

事故要因のデータなどを分析すると、そのほとんどはヒューマンエラー、人的な要因です。衝突安全ボディやエアバッグ、自動ブレーキなど、自動車の性能は上がる一方で、ヒューマンエラーは変わらずに起きているのです。これを無くすことが、ひとつの解決法といえます。

その答えとして挙がるのは「自動運転」です。自動運転がサービス化されれば、ヒューマンエラーがほとんどない世界にたどり着けるかもしれません。ただ、現状では実現に時間がかかります。また、サービス化されたとしても、すべての地域、あらゆるシーンで適用できるかはまだ未知数でしょう。それは、自動運転の有識者に聞いても同じ意見でした。

ーーその中で、どんな対策をとろうと考えたのでしょうか。

自動運転が普及するまでに、AIの力を使って我々にできることを考えました。といっても、人間のエラーをなくすのは現実的ではありません。人間のエラーは付き物なので、仮にエラーを起こしても事故につながらない、もしくは被害を最小に防げるよう、余裕を持った運転ができればと考えたのです。

ーー具体的にどのようなことでしょうか。

事故を起こしてしまう人は、日常的にリスクある運転をしているケースが多いといえます。根拠として、膨大なドライバーのデータを分析し、事故率とドライバーの運転状況を比較しました。事故を起こすドライバーと起こさないドライバーの差はどこにあるのかを見たのです。

その結果たどり着いたのは、自動車教習所で言われることです。つまり、事故を起こす人と起こさない人の「差」は、一時停止をきちんと止まる、車間距離を十分に開けるなど、基本として言われたこと。こういった項目は、やはり事故を回避するための大きな意義を持っているのです。たとえば、車間距離を十分に開ければ、アクシデントが起きても回避できる可能性が高まるわけですから。

ーー教習所で言われるような、基本的な事柄を守っているかどうかが、ドライバーの事故率の差になっていると。

はい。教習所で言われることをきちんと守るドライバーは、事故を起こしにくい。ということは、それを多くの人ができるようになれば、一人一人の運転は安全になり、事故減少につながります。

であれば、私たちが持つAIの技術で、多くの人がそういった運転を再現できるようにしようと考えたのです。ここで、DRIVE CHARTの基本方針が固まりました。2017年5月のことです。

ーーわかりました。その後、どのようにしてDRIVE CHARTのサービスができていったのか、後編で詳しく伺います。

取材日: 2019年5月31日