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INTERVIEW

AIとIoTを活用して交通事故が減るように。
プロジェクトリーダーが語る、DRIVE CHARTができるまで(後編)

川上 裕幸 川上 裕幸
INTERVIEW

オートモーティブ事業本部
スマートドライビング
部長

川上 裕幸
Hiroyuki Kawakami

DeNAオートモーティブでは、交通事故の削減に向けた新サービス「DRIVE CHART」をローンチしました。車に設置したカメラの映像やセンサーをもとに、AIを用いてドライバーの運転を分析。タクシーやバス、商用車などについて、危険な運転を可視化し、安全運転指導に生かします。

このプロジェクトのリーダーを務めたのが、DeNAオートモーティブ事業本部 スマートドライビング部 部長の川上裕幸さん。今回の後編記事では、DRIVE CHARTをリリースする前の実証実験や今後の展開などについて聞いていきます。

川上 裕幸

タクシー会社、物流会社の協力で行われた実証実験で手応え

ーー前回、DRIVE CHARTの方針が固まったところまでうかがいました。その後、どのようにサービス化へと進んだのでしょうか。

ドライバーの運転中の映像をAIで分析し、危険なクセや特性、リスクなどを見える化するサービスを作ろうと考えました。そうして、DRIVE CHARTのシステムが開発されました。

前回話したように、これまでにもドライブレコーダーで運転中の映像を撮影して、それをもとに運転の改善を促すことは可能でした。しかし、タクシーやバス、商用車のドライバーは1日何時間も運転します。その映像を細かく振り返るのは現実的ではありません。そこで、AIが急加減速や一時不停止など、ポイントになるシーンを検知して、ドライバーがピンポイントで見られるようにしました。

さらに、これまでは見つけられなかった、より細かなリスク、潜在的なリスクを検出できるのも特徴です。

ーーどういったことでしょうか。

たとえば、道路状況に合わせた速度超過の検出です。スクールゾーンや住宅地では、より慎重な徐行運転が求められますが、それを実践できているか、AIの画像認識技術で判断します。また、内側カメラでドライバーの挙動や表情を分析するので、脇見運転や細かなクセも捉えられます。

これらには、コンピュータビジョンという画像処理技術が使われており、瞬時の解析が可能。リアルタイムで行えるので、運転分析をその日のうちにフィードバックするなど、PDCAを早く回せるのです。

このようなシステムを作り上げて、実際に効果が出るのか、実証実験を行いました。

ーー実証実験とは、どのようなものでしょうか。

タクシー会社や物流会社などの協力を経て、タクシー約100台、トラック約500台にDRIVE CHARTを搭載。2018年4月から10月にかけて、効果検証を行いました。

その結果、タクシーは過去5年平均と比べて、事故率が25%削減。トラックは、48%の削減が見られました。また、事故が起きれば、車両の修繕費や賠償金など、経済損失も起こします。これについても、実証実験の結果をもとに算出したところ、タクシーでは45%ほど、トラックでは90%近い削減となりました。

数字的なものだけでなく、このシステムによりドライバーの運転行動にも明らかな変化が見られました。それを踏まえ、社会課題に対する改善策となり得るという手応えをつかんだのです。そこで、システムのブラッシュアップを行い、事業化に至りました。

最大48%の自己削減効果      

どうやって「危険運転」を判断するAIをつくったのか

ーーAIの画像認識技術がシステムの核になっていますが、どのように危険な運転を検知するAIを構築していったのでしょうか。

まず大前提として、AIが映像の中にある車や白線、人などを認識する必要があります。そこで、それらを認識するための見本となる教師データを与えました。10万枚以上の画像について、車や白線、人などにタグをつけて読み込ませます。すると、AIはそれを学習して、次第に自分でこれらを認識できるようになります。

その上で、今度は車間距離や一時不停止、スピード超過など、運転が危険かどうかをAIが判断できるように学習させました。

ーーどのように学習させたのでしょうか。

まずは、教習所で教えられるような基本事項をベースに、人間が一定のルールを定めます。車間距離なら、「前の車との差が何秒以内なら危険」など。過去の事故データから、どういった運転が重大事故につながるか、すでに分析されているものが多数あります。それらを活用して、まずは事故との関連性が高いもの、特に危険な運転をピックアップして判断できるようにしました。

ただ、ここで難しいのは、道路は一律ではなく複雑だということです。ひとくちに車間距離と言っても、道路の狭さや環境、あるいは当日の天候で最適な距離は変わってくるでしょう。こういった部分は、データや知見を生かしながら、その判断方法を構築していきました。

ーー確かに、危険な運転の線引きは難しいかもしれません。

一時停止の判断も簡単ではありません。3秒ほどきっちり停止した車なら、明らかに一時停止の実行を認められますが、微妙な止まり方のケースも多い。では、どこまでの挙動を「止まった」と認めるか。安全な運転と見るか。このラインはかなり難しいです。

これらについては、データを蓄積する中でAIが機械学習で学んでいきます。速度だけでなく、他の要素も踏まえて「この特徴から止まったと認められる」という判断ができるようになっていきます。

あとは、総合的に運転を見るのも重要です。仮に、「速度」という一要素で安全運転かどうかを見ると、加速や減速が少ない運転が安全と考えられます。しかし、それは一時停止をしていない可能性もある。だからこそ、内外カメラの映像、そしてGPSや加速度センサーなど、いくつもの情報を複合して高度に判断するシステムとなっています。

川上 裕幸

道路の映像をデータにして、街づくりにも活かしてく

ーー今後、どのようなサービス展開を考えているのでしょうか。

DRIVE CHARTの機能を高めるのはもちろん、将来的にはDeNAの他サービスと連携することもあり得るかもしれません。たとえばタクシー配車サービス「MOV」との連携はイメージしやすいでしょう。DRIVE CHARTによって、ドライバーの事故を削減し、安全な運行ができれば大きなメリットになります。

個人間カーシェアサービス「Anyca」とつなげるのも、シナジーが期待できるでしょう。Anycaは車のシェアを行うサービスですが、当然、利用した車で事故が起きるのは避けたいところ。そこで、ドライバーの安全運転をサポートできるような仕組みができれば面白いのではないでしょうか。

さらには、DRIVE CHARTで集まるさまざまなデータも有効活用したいと思っています。

ーーどういったことでしょうか。

DRIVE CHARTが普及すると、車載器のカメラから日々いろいろな道路の映像が集まってきます。そのデータは、道路の劣化箇所や舗装の状態、路上の障害物などを把握する情報源になります。また、映像を分析することで、渋滞の起きやすい箇所や時間帯、傾向なども分かるので、道路計画やまちづくりにも活かせるでしょう。

もちろん、個人情報の保護に留意することが大前提ですが、集積したデータを自治体や警察などとともに利活用したいと考えています。それが、私たちインターネット企業にできる社会貢献ではないでしょうか。

DRIVE CHARTの収集データによる街づくりへの貢献

ーーDRIVE CHARTがローンチされ、一緒に働くメンバーも今後さらに必要になると思います。どんな人がこの仕事に向いているでしょうか。

このサービスで何をしたいか、何をつくりたいかという大きな目的を重視している人が良いのではないでしょうか。細かなシステムの開発以上に、「事故を削減して社会課題を解決する」という大きなテーマに共感する人が向くと思います。

あとは、自分もエンジニア出身ですが、AIやビッグデータ、IoTという、今まさに重要とされる技術にすべて携われるのは魅力だと思います。加えて、実社会に接したサービスやシステムを作るので、それも大きな意義になるのではないでしょうか。

デジタルのサービスやシステムは、デバイス内に閉じるケースも多いですが、ここでつくるものは実社会に取り込まれますから。

ーーエンジニアのキャリアを考える上でも、大きな経験になるかもしれませんね。

そうですね。実社会に投入されるサービスは、広い技術領域が絡みます。それは自身の能力を伸ばす上でも価値になるでしょう。特に交通産業は、社会課題とつながっており、確実にこれから伸びるはず。その産業の中で、広い技術領域に携わりたい人には、やりがいがあるのではないでしょうか。

取材日: 2019年5月31日