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INTERVIEW

タクシーアプリのエンジニアをまとめるリーダー。
彼が描く「移動の概念が変わる未来」とは

寺岡 裕喜 寺岡 裕喜
INTERVIEW

オートモーティブ事業本部
スマートタクシーシステム
開発部 部長

寺岡 裕喜
Hiroki Teraoka

さまざまなサービスを開発・運営するDeNAオートモーティブ。次世代タクシー配車アプリ「MOV(モブ)」もそのひとつです。この開発チームにおいて、エンジニアサイドの責任者を務めているのが、DeNAオートモーティブ事業本部スマートタクシーシステム開発部部長の寺岡裕喜(てらおか・ひろき)さんです。

2019年2月より後部座席へのタブレット導入が決定するなど、サービスの進化を続けるMOV。その責任者である彼は、今、この仕事に携わる意義について、「移動時間の概念を大きく変えられる」「移動のダイナミズムをつくれる」といいます。これまでの経歴を振り返りながら、その意味を追いました。

寺岡 裕喜

「自分でゼロからサービスを」という思いが、今につながる

ーー寺岡さんは、前職で経路検索や地図を主サービスとする企業に勤めていたとのことですね。

はい。ずっとIT業界にいますが、前職はナビゲーション領域に強みがある企業にいました。大学では核融合という壮大なテーマを研究していて、修士を卒業したのですが、その実用化には少なくとも50年以上かかるということで、「あまりにスパンが長いな、俺は生きてるのか」と(笑)。もう少し短いスパンでビジョンが見える仕事をしたいと思い、IT分野に就職しました。2001年のことです。

最初は大手のSI企業に勤め、プリセールスやインフラ・ネットワークの構築に携わりました。その後、その上で動くソフトウェア部分に携わりたい、どうせなら自分で何でもしないとまわらないところに行きたいと、六畳一間、4名ほどのベンチャーに転職しました。そこで5年ほど働いたのち、前職の会社に入ったのが2009年のことです。

ーーなぜ転職されたのでしょうか。

ベンチャーでは、土日も忘れるぐらい、濃密にソフトウェア開発に携わることができました。その中で、開発は開発でも「他社様のサービスではなく、自分でゼロから考えたサービスを作り提供したい」と思ったんです。そして、自社サービスを展開している企業へと転職。非常にやりがいがあって居心地良かったのか、DeNAに入るまでの9年間を過ごしました。

ーー実際に、ゼロからのサービス立ち上げを行ったのでしょうか。

そうですね。最初はエンジニアリングやPM業務が中心で「無駄な精神的負荷が無い環境で、本当に頭を使うべきところに集中でき、生産性のある組織にするにはどうしたらいいか?」を考えて実施することにハマってました。アジャイルやCI/CD、DevOpsと言われている類です。徐々に企業としての強みや社会課題を把握するようになり、いくつか企画を提案させてもらいました。

一例を挙げると、業務で車を必要とする営業、物流や保守業向けに業務効率化を目的とした、経路検索技術を活用した動態管理ソリューションを作りました。前職は、当時コンシューマー向けのサービスがほとんどでしたが、こちらは法人向け。システムは大きく2つで構成されていて、ドライバー向けに案件確認と移動をサポートする機能を備えたスマホアプリケーションと、事業所の運行管理者向けに配車計画作りと車両・ドライバーの状態管理が行えるWebサービスで成り立っています。

当時から物流業界では荷物の増加やドライバー不足が問題となっており、輸配送の効率化・ドライバースキルの底上げが行えるサービスとして業界の課題解決の一助になれたと考えてます。このあたりからですね、「世の中の課題を解決する手段としてIT技術やプロダクトがあり、結果としてビジネスのリターンが得られる」ということを強く考え、大事にするようになりました。逆に「旨味のある市場を探して何を作ろう」という考えだと大抵うまくいかない。現場にもよく出向き、トラックの助手席に乗せてもらったり、凍りつくほどの冷凍倉庫で荷役フローを確認させてもらったりしました。現場は大事ですね。また、戦略・戦術がある中で、エンジニア・営業・カスタマーサポート・デザイナー・QA・広報広告・法務・経理など多くの方が動いて、ビジネスが成立するのだと見えたのもこの頃です。当然の事なんですが、腹落ちしたというか。

これを含めた法人向け商材を扱う事業の責任者になり、一定の成果を収めたので、その後はコンシューマー向けの事業責任者として様々なプロダクト群を運営しました。この時に分かったのは自身が得意なステータスです。0→1、1→10を目指すプロダクト運営は得意、100→100に維持するのは苦手だなと。0→1が好きなんです、ついつい新しい別のサービスを立ち上げてしまう。

当時立ち上げたサービスの1つに、世の中の車渋滞を減らすために、渋滞を避ければ避けるほどマイレージが貯まるというサービスがあります。登録者はこのサービスの利用前後で10%、渋滞を回避してくれるようになりました。さらに、数倍に増えたプローブ(位置情報)を使い、カーナビゲーションの渋滞予測精度も向上しました。

他にも代表的なサービスとしては、トラックドライバー向けカーナビゲーションも作りました。当時は大型規制を考慮したカーナビが世の中に存在しませんでした。そもそも道を知っているプロがナビを必要とするのか?また、大型規制の電子データが無く、紙のデータしかなかったため、実現は難しいと否定的な人が多かったんです。ただ、ユーザーからの要望は定期的に頂いていました。意思決定までの流れは割愛しますが、このビジネスは今も非常に大きく成長しています。株の格言「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」という言葉がありますが、ビジネスを産み出すときにも通ずるなと思いました。この頃からです、周りに否定されるほどチャンスと喜んでしまう体質になったのは(笑)。



モビリティサービス領域の中で「手段を問わない」環境に魅力を感じた

ーーその後、どんな経緯でDeNAオートモーティブに移ってきたのでしょうか。

コンシューマー事業を担当した後、編成しなおした事業に携わりました。事業が軌道に乗り、メンバーも成長して自分が居なくてもまわる状態になり「なんだか楽してるな、俺」と。その時、純粋に「新しい挑戦をしたい」という気持ちが強くなったんです。
ここ数年、モビリティサービス領域は世界的にもさまざまなIT企業が参入していて、これまでの常識が大きく変わってきていると感じていました。その状況を見て、「ナビだけではない様々な軸を通してこの業界に関わりたいな」と。

DeNAの場合、タクシー配車アプリから自動運転、カーシェアリング、安全運転支援などさまざまなサービスを提供(予定含む)しています。「交通不全の解消」というミッションに対して、それぞれのサービスが同時代の横に、将来の縦に繋がってるんです。これまで経路検索や地図を武器にコンシューマー・貨物・旅客業界を主戦場としてきたので、その経験は生かしつつも、さらに幅広く交通に貢献できると思いました。そして、DeNAならそれができると感じたんです。

あとは、DeNAオートモーティブの事業本部長と話した時に、非常に大きな事業構想を描いていて。今は全く売りが立っていないのに、数年後にこうなっていると自信満々に語るわけですよ。そこに刺激を受けたのも大きいです(笑)

ーー具体的には、どんなことでしょうか。

事業の現状と今後のビジョンを詳しく説明してくれたのですが、特に印象に残ったのは、これらの事業が2年後3年後にどう結実しているか、そのストーリーを聞いたときに数年後の道筋が自分の中に見えたんです。素直に「この会社で交通不全を解消したい」と思いました。

それと、オートモーティブ分野で仕事を続けようとは思っていましたが、引き続きITサービス企業を条件としていました。非常識が翌日には常識になる変化の大きい時代には、業界の伝統・慣習にとらわれない組織のほうが動きやすいかなと。既存の自動車業界ではない、サードパーティのIT企業だからこそできることがあると思ったんです。

寺岡 裕喜

変化に対応できるエンジニアが多く、頼り甲斐のあるチーム

ーー今はどんなポジションにつかれているのでしょうか。

タクシー配車アプリ「MOV(モブ)」のエンジニアサイドの責任者を務めています。“ディレクター”と表現されることも多い役割。端的にいうと、プロダクトマネージャーが”何を作るべきか”「What」、”なぜ作るべきか”「Why」に責務があるのに対し、ディレクターは”どのように実現するか”「How」、”いつまでに提供するか”「When」に責務があります。もちろん、エンジニア自身も。
タクシーの呼び方は従来の”電話で呼ぶ”、”道端で手を挙げて呼ぶ”、”駅の乗り場”に加え、”スマホアプリで呼ぶ”の4つがあります。それぞれで「必ず来る体験」をユーザーに提供し、交通不全の解消に繋げ、その結果、事業者はリターンが得られる。そのために、どういったものを開発・提供するかをプロダクトマネージャーと検討します。それらの種はユーザーのご意見、事業者のご意見、データ分析、社内アイデアなど様々。先日はタクシーの助手席に6時間ほどお邪魔して、タクシーの通常業務の理解、アプリケーションの使い勝手などを調査したりもしました。「タクシー協会の方が視察で乗ってます」と顧客に説明してもらいながら。(笑)
Howを実現するためにはソフトウェアに限定することもしません。たとえば、決済にタクシーの料金メーター情報が必要だったため、取得するためのハードウェアも作りました。

ーー非常に責任の重いポジションですよね。

そう言えるかもしれません(笑)。たとえばMOVは、2019年2月から後部座席にタブレットを導入することを決定しました。また、これまで神奈川県で配車アプリを展開していましたが、2018年12月には東京23区でも展開を開始しました。タクシーと利用者が急激に増えていく中でいかに安定したシステムを提供し続けるか、さらに進化したサービスをどう実現するか。当然、責任はありますし、やりがいも相当大きいです。

ーー実際に働かれて、どんな雰囲気でしょうか。

前職と同じく、DeNAのオートモーティブ事業部はエンジニアや内製を大事にしていますし、とにかく新しい技術を積極的に使おうという姿勢です。その文化は変わらないので、非常にやりやすいですね。

あとは、エンジニアの質が高いこと。IT系はどうしても若手が多くなりがちですが、今のチームは20代・30代はもちろん、40代・50代で開発に携わっている人も豊富です。その幅広さが面白いですし、ベテランのエンジニアは落ち着いていて頼り甲斐があります(笑)。局面が変わっても慣れたもので、冷静に対処するというか。また、これまでやってきた経験も幅広いです。ゲーム、地図、教育、医療、組み込みなど出身は様々です。多様性が創造につながる下地になっているんではないかと思います。

DeNAはビジネスサイドのパートナリングや事業化能力も高いですし、何よりオートモーティブは変化が激しいので、昨日話した方針が今日変わるケースもあります。昨日のことが古くなるのが今のオートモーティブですから、むしろそれは良いことだと思っていて、この変化についていけないと勝てません。ただ、その変化に慌てず対応するのは決して簡単ではない。その点で、チームメンバーの持つ経験や引き出しの多さは頼りになります。

寺岡 裕喜

オート最大の魅力は「移動の概念が変わること」

ーー寺岡さんにとって、今のオートモーティブの魅力とはどんなものでしょうか。

色々ありますが、最大のものは「移動の概念が変わること」です。意味は2つあって、1つは自動運転をはじめとしたテクノロジーが移動を担うようになると、人にとって移動中は自由な時間になり、「その空間で何ができるか」が大事な時代になってきます。

ですから、どんなモビリティサービスも移動中の体験が重要になる。UXの設計が価値を持ちます。これは今まであまりなかった概念で、たとえばMOVで後部座席にタブレットを導入するのも、移動中の体験を向上させたいから。タブレットでニュースや交通情報が見れたり、決済が出来るようになる。それに伴い、酔わないタブレットと車両が必要となってくる。これはまだ市場として開拓の余地があるので楽しいですよ。最終的に空間がシームレスになり、”移動”という意識が無くなるかもしれません。

ーーもう1つの意味は、どんなものでしょうか。

移動のダイナミズムが増すことです。タクシーの利便性が上がったり、自動運転が普及したりすることで、公共交通手段としての「車」が存在感を増してきます。すると、今までなんとなく「公共交通機関=固定化されたルートを持つ電車、路線バス」というイメージだったのが、そこに車を組み合わせた移動がしやすくなる。移動の選択肢が増えることになるので、目的地への移動手段を考えるときに便利になります。たとえば電車に乗ってタクシーに乗って電車に乗って……という「移動の接続性」がアップしますよね。どこにどれだけの車を配車する必要があるかの需給のバランシングも必要となります。

まさにこれが「交通不全の解消」になりますし、豊富な選択肢が並んだときに、移動サービスそれぞれの真価が問われます。その中で開発に携わるのは、エンジニアの血がさわぐというか、やりがいがあります。

ーーわかりました。最後に、寺岡さんが考える「DeNAオートモーティブに向いている人」とはどんな人でしょうか。

まずは柔軟性と主体性を持った人。変化が激しく、かつ自分でサービスを開拓できる・システムを構築できる時期なので、「こういうサービスを作りたい」「こういった仕組みで作り上げたい」という想いが強い人ほど働きがいのある環境ではないでしょうか。

特に今は「0から1」という開発体験ができるので、どのサービスのエンジニアもタイミングとして面白いはずです。サービスもまだまだ発展の途中ですし、これからリリースするものも出てくるでしょうし。

マーケットがまだ固まっていない分野で、0から1の開発ができる機会はなかなかありません。ですから、自分で作って発信したい人にとっては、本当にベストな業界だと思います。

取材日: 2018年10月17日